スタンダードな形に秘められたこだわりの数々
学生時代を思い起こさせるようなスタンダードな椅子ですが、実は秘められたこだわりが随所にある椅子と言う点に注目してほしいと思います。
まず、プライウッドで成形合板で作られた椅子であるということ、座面の縁の丸い曲線を帯びたフォルムの美しさも見事です。木がこんなに滑らかだったのかという具合に柔らかく滑らかな曲線となっています。背面も緩やかなカーブになっていて背中をホールドしてくれるような形です。
この椅子はフランスのデザイナー「ジャン・プルーヴェ」による「スタンダードチェア」と呼ばれる椅子です。名前は「スタンダード」でありながらその製造技術には熟練した技が集結したものです。
木で作られた美しい曲面の座面と背面は美しい木目も印象的です。
脚にも特徴があります。幅広な3Dの後ろ脚に比べると対比したように細いスチールパイプの前脚となっています。後ろ脚は人間がもたれかかっても力を吸収するように力強く、前の脚は快適に座れるように細く美しい脚をしています。
そして、座面と背面の木がプライウッド(成形合板)で製造されていて実に美しい姿をしています。この美しい木が魅力の「スタンダードチェア」は、また材質や塗装の色の種類を選ぶこともでき、それぞれでまた異なる楽しみ方をすることもできます。シンプルなデザインなだけに色や木の材質を変えるだけで雰囲気が変わります。
こちらは後でご紹介する「ジャン・プルーヴェ」のデザインしたテーブル「ゲリドンテーブルA」と「スタンダードチェア」を合わせた例です。こうやって合わせると彼がデザインする家具の木の美しさがさらに際立つことがわかりますね。
彼の家具は、椅子一つの中にも前後の脚の太さが異なり強弱のリズムを持った家具です。また、木とスチールの美しいコラボを感じることができるデザインのチェアです。
「スタンダード」と言いながら個性的なリズムや異素材の組み合わせと言ったこだわりがしっかりあります。そして洗練されたオシャレな空間を作ってくれる家具が特徴です。
鉄加工技術と美しい木のコラボ
そんなパリ出身のデザイナー「ジャン・プルーヴェ」は、アールヌーヴォーの巨匠を父に持ちながら鉄加工技術を身に付けたという個性的なデザイナーです。彼の鉄加工技術が「スタンダードチェア」には存分に活かされています。
シンプルで機能的なデザインですが木とスチールとのコラボ、しっかりとした技術に支えられたコラボが実現しています。
そして、「ジャン・プルーヴェ」デザインの「Antony(アントニーチェア)」は木とスチールの組み合わせによるデザインがどこから見ても美しいチェアです。
座面から背面が美しい一体成型の成形合板でできたチェア。そして、それを支える脚がリズミカルで太い所や細い所、丸くなって支える箇所など楽しいリズムを刻みます。
わざわざ後ろに行ってでも眺めたくなるようなデザインとなっています。
こちらはパリ近郊アントニー大学都市のキャンパスのためにデザインされた椅子です。一体成型された背面は緩やかにカーブしていて贅沢なデザインです。キャンパスにこんな贅沢な気分になれる椅子があるのだろうかと思います。
斜めまたは後ろから見るとわかって頂けるように、座面とそれを支えるL字型のスチールフレームとの間にわずかに隙間があります。座面が浮いているようなデザインになっていて、それがクッション性に繋がっています。美しい魔法のようなデザインがしっかりとした機能性を作り上げているものです。
脚の部分のスチール、そして座面を支えるスチール、そして美しい曲線の成形合板とそれぞれが最高の機能性を追求しそれを組み合わせた物として一つの椅子「Antony(アントニーチェア)」ができ上がっています。
裏面から見てもその造りの面白さ、特にスチールの構造には特徴的なものを見ることができます。均一な大きさではない物がそれぞれに機能性を考えて組み合わせられています。背面や裏面と呼べる部分にも「ジャン・プルーヴェ」デザインの特徴が個性を放ちます。
テーブルにも木とスチールの構造美
「ジャン・プルーヴェ」がデザインしたテーブル「ゲリドンテーブルA」にも木とスチールの美しいコラボが見られます。
この「ゲリドンテーブルA」の特徴は特殊な形の脚にあります。天板を支える部分がとがった形になっていて特殊なフレーム構造となっています。そして天板に荷重がかかると安定するという計算された構造です。
「ジャン・プルーヴェ」が考え抜いた構造美学がここにあります。こちらのテーブルもやはり裏側からじっくり見たいテーブルとなっています。
裏側でしっかり支えるスチールの美しさ、こちらも色々な形のスチールが支えているのがわかります。脚の形も不思議ならば天板と脚を繋いでいるスチールも特徴的な形です。
どこを見てもデザイン性に優れ、構造美を考えた上でのデザインとなっています。まさに立ち姿が美しいテーブルと言えます。木の美しさもスチールの美しさも伝わるテーブルが「ゲリドンテーブル」です。
こちらは天板が直径120cmある大きいタイプの「ゲルドンテーブルB」ですが、色々な椅子と合わせてもデザイン性の高さがわかります。木の持つナチュラルで温かい雰囲気が伝わる家具でもあります。
こうして彼がデザインした椅子やテーブルを見てきますと、シンプルですが、インパクトのある美しさを主張する家具が「ジャン・プルーヴェ」の家具の魅力と言えるのではないでしょうか。
フレキシブルに動く画期的なランプ
「ジャン・プルーヴェ」のデザインした物の中には他にもランプがあります。「ポテンス ウォールランプ」と言う個性的なランプは、スチールを塗装しただけで溶接の跡や未加工の表面をあえて残した無骨なスチールの素材感を楽しむものです。
これも鉄のことを良く知っている、鉄の加工技術も熟知している彼だからこそ行ったデザインなのでしょう。「ジャン・プルーヴェ」らしいランプと言われています。
このランプの特徴は、シンプルな造りですが、自由にランプの位置を一番下に付いている取っ手によって左右にスイングして動かせることです。実は「ポテンス」というのは、ランタンなどを吊るす腕木のことを言います。ランタンを吊るしただけの自由性が効くランプをデザインしたのが「ポテンス ウォールランプ」です。
邪魔な時はフレームごと壁に沿わせておくことができます。自由に振って光源が欲しい場所に移動することができるフレキシブルで機能的なランプです。20世紀にこのような自由なランプをデザインしたというのも素晴らしいものです。
多才なデザイナー「ジャン・プルーヴェ」
彼の自由な発想には驚かされます。シンプルですが構造美を持つ個性的な椅子「スタンダードチェア」「Antony(アントニーチェア)」から絶妙なバランスの「ゲルドンテーブル」、自由に動く「ポテンス ウォールランプ」など彼の多才さには圧倒されます。
実は「ジャン・プルーヴェ」はデザイナーとしてだけでなく建築家としても活躍しています。そして、またナンシー市の市長や大学の教授も務めたという人物です。これほど多才で多くの経歴を持つデザイナーもあまりいないのではないでしょうか。
彼のデザインする椅子が正面からも斜めからも背面、裏面も美しいように、彼の才能も様々な能力を発揮したようです。まさにどこから見ても楽しませてくれる家具が「ジャン・プルーヴェ」デザインです。